素敵な学校

これからの人類のために、自分の快適な生活のために、すてきな学校を考えます。

「あの日」

 

前日の夜は、卒業生のピアノリサイタルでした。
音楽会などに行くと、携帯の電源を切って、そのまま余韻に浸って忘れてしまうことが多々あるわたくし。その日もそうでした。やっと思い出して携帯の電源を入れたのは、夜11時をとうに回って、シンデレラがそわそわし始めそうな時間でした。
発信者「文化学院」という不在着信が何件も並んでいて、留守番電話に入っていた声は校長でした。お話ししたいことがある、とだけ。
この時点であまりいいことは考えないものですが、まあ、大人げなくても年の功はあるわたくしは、こういう時はともかく寝る! と、睡眠はしっかりとりました。

 

翌10月31日、朝一番に学校に電話すると、授業の前に校長室で、ということでしたので、少し早めに行きました。
そこで、「高等課程の募集停止。実質廃止」の内容を聞いたのです。
会話の詳細は今は書きません。まあ、所詮バイトっすから、この決定に対する有効打は持ち合わせちゃあおりやせん。


そしてその日の放課後、高等課程の生徒を集めて、その発表をするというのです。
(つまり非常勤には、生徒に言う前日の夜に電話で知らされたということですね)


生徒たちはなんで急にそんな変則の招集をかけられたのかわからない。自分たちのだらしないことをあれやこれやと挙げて、きっとあれとかこれとかだ、と話しています。うーん、そんなことで集会する学校じゃないことはみんなも知ってる、でも理由わかんないもんね。

 

集会は、6限が終わった後でした。
私はその曜日は7・8限専門課程の授業で上階に上がっていて、まさに発表のときには居合わせませんでした。一度、職員室に降りた時に、エレベーターで1・2年生と乗り合わせて、いまたいへんなことになってますよ、うんそうだねというような会話を交わしただけでした。

 

8限が終わってから降りてみると、生徒は誰もいない、静かな職員室でした。

 

翌日、さあ、昨日の今日でどんなふうに授業に臨もうか、と考えながら学院へ行きました。
別に何があってもやるべきことをやるだけなのではありますが。
胸の奥に鉛のキューブを抱え、ふわふわと頼りない綿の上を歩くような気分で、実際にはいつもどおりさくさく歩いて行きました。

今やオブジェと化している古いアーチを抜け、建物の入り口の新しいアーチに入ろうとした、まさにその間のあたり、数人の1年生が飛びついてきました。
ハロウィンの仮装をした彼らはこう言いました。
「はい、お菓子あげる!」
「おやおや、子供が大人にお菓子をくれるの?」
私は笑いました。
「うん、いいんじゃない? この学校だから!」
お化けたちはそう言って、駆け去って行きました。

 


そのとき、何か余計なものが晴れました。
学院は、この子たちのものです。